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2011年5月17日火曜日

「モチベーション・ワークショップは本にできるか」ワークショップを書籍化する際に気をつけるべき8つのこと


こんにちは。モチベーション・メーカー、サポーターの山田聰です。

モチベーション・メーカーの主な活動はワークショップですが
ワークショップにはさまざまな長所があるいっぽう、
「参加人数がきわめて限定される」
「その場にいない人には体験や学びが共有されにくい」
という短所もあります。モチベーション・メーカーの
究極的な目標は「教育格差」という社会問題の解決なので、
こうした短所をどうやって乗り越えていくか?という点を
よく話し合っています。そのなかのアイデアのひとつで、
活動を書籍に変換して出版するのはどうか?という話も出ます。
本になれば、何千、もしかしたら何万という方に何かを伝えられます。
もちろんワークショップなどの体験が
そのまま伝えられるわけではないですが・・・。

ということで、今回のエントリでは、すこし内向きなのですが、
実際に僕個人がワークショップを書籍にするプロジェクトに、
携わったときの体験をまとめてみました。
東京大学 i.school というところで本をつくったときの体験です。


モチベーション・メーカーの出自は、「東大生に
イノベーションを学んでもらおう」という意図で活動している、
東京大学の「i.school」という教育プログラムにあります。
この東大 i.school の開校初年度、2009年度に行われた、
「社会的企業(ソーシャル・エンタープライズ)をつくる」
というワークショップで生まれたアイデアが、
モチベーション・メーカーの素になっています。

この東大 i.school の2009年度の活動は、リンク
『東大式 世界を変えるイノベーションのつくりかた』という書籍に
採録されているのですが(なので、お読みいただけると、どんな
やりくちでモチベーション・メーカーが生まれたのかがわかります)
今回はこの書籍を書いたときのことを振り返ってみたいと思います。
(主著者は i.school の田村大氏で、僕はそのサポート。)



まず、この教育プログラムを書籍化してみよう!という話が、
i.school メンバーの中で持ち上がったのは2009年の6月くらいでした。
その当時、僕は i.school の9月の開校に向けて告知ポスターや
ウェブサイトの制作をお手伝いしていました。そうした作業のなかで、

・この面白そうなプロジェクト、なんか本にできないかな?
・何をどう学んだか?という実録、体験の記録はほしいよね。
・東京大学でイノベーションで学ぶ!プログラムや知恵を、
学校の中だけで完結するんじゃなくて、世の中に広げたいよね。
・いろんな学生さんやビジネスマンの役に立つんじゃないかな。

という意見が出て、とりあえず出版社の方に相談してみよう!
という話になりました。


相談を持ちかけたのが、早川書房(当時)の小都さんという編集者さん。

東大i.schoolの開校記念シンポジウムおよび第一回のワークショップは、
IDEO(アイデオ)という世界的に高名なデザイン・コンサル会社の
協力で行うことが決まっており、IDEOのゼネラルマネージャーである
トム・ケリー氏が i.school のエグゼクティブ・フェローに
就かれることも決まっていました。
IDEOとトム・ケリー氏は、『発想する会社!』
『イノベーションの達人!』といった、イノベーションに関する、
実践をもとにした書籍でも知られているのですが、
その日本での訳書を出されているのが早川書房さんであり、
編集者が小都さんだったので(謝辞でお名前を発見しました)、
不躾ながらいきなり早川書房さんに飛び込みプレゼンをさせていただき
事情と企画をご説明さし上げたわけです。

突然の申し出にも関わらず、小都さんは前向きにお考えいただき
「とりあえず実際のプログラムを見学・取材してみましょう」という
話をしていただけました。通常、出版物は出版企画書という
構成や売り方などを詳細につめた企画書をつくって執筆活動に
入ると思うのですが、「ワークショップ形式だし、プログラム自体が
どんなものになるかもわからないので、とりあえずやってみないと!」
というノリで、開校に突入しました。


取材中は、とにかく写真をたくさん撮り、
ビデオカメラを回してレクチャーやグループワークでの会話を録り、
プレゼンテーションや発表物などの情報を保存します。
なんと編集者の小都さん自ら、何十時間にもわたる
ワークショップに同行・撮影をしていただきました。感謝!
現場の空気感とか流れとかを体感して身につけていきますが、
この段階ではまだ一文も文章は書いていないし、
それどころか企画を練ったりもしていません。
(今から考えると、少しは書き溜めておけばよかった・・・)


09年度の全日程(四つのワークショップ)が終わったのが、2010年2月。
そこからいよいよ「さあ、どんな本にしよう」に頭を巡らします。
その際に、全日程を省みて、学びや気づきを共有する
「ふりかえり」ワークショップを学生のみなさんと行って、
「i.school とはなんだったのか?」を再考しました。これが2月20日。

その「ふりかえり」ワークショップをベースとして、

・四つのワークショップを横断的に眺めて、
共通する「道筋」を浮かび上がらせる。
・その「道筋」=「あつめる」「ひきだす」「つくってみる」「場」
という3ステップと1つのファクター。これらの項目ごとに
各回のワークショップでやったことをまとめ直して紹介する。
・つまりワークショップをそのままなぞるレポートではなく、
参加者が学びとった、やりくちや態度、気づきを伝えるものに。

という、実際の書籍の骨子ができました。
企画と並行して、書名の検討・決定や
装丁・デザインなどの相談も進めていきます。


発売の日程は、広告出稿等の関係で、5月後半と決まっていました。
本来ならば遅くとも一ヶ月半前には書き上がった原稿を
入稿(印刷所に入れる)しておかないといけないと思うのですが・・・
なんと文を書きはじめたのが4月から。書き手が仕事で時間がとれず
3月が資料のとりまとめや整えで過ぎてしまったのが痛かった・・・

ついに原稿が完成し、印刷所に入稿し終わったのは、
ほんとうにギリギリのギリギリ。(というかほんとはアウト・・・)
出版社さんや印刷会社さんその他のみなさんに多大なご迷惑を
おかけしてしまいましたが、できあがりました。
(みなさま、ありがとうございました・・・!)


やはり刷り上った本を触って、パラパラめくってみるのはうれしいもの。
書店の店頭に並んでいるのを見るのも、感慨ひとしおです。


さて、以上の体験から、なんとなくですが
「ワークショップを書籍化する際に気をつけるべき8つのこと」
というのを羅列してみます。


・出版企画書は、つめないこと

ワークショップの現実に対応できる柔軟さを持っておく。

・もちろんワークショップに出た人が書くこと。
現場の空気や流れを知っていないと、書けない。

・写真や映像を、とにかく撮っておくこと。
できればレクチャー部分をまとめたテキストも書き溜めておく。

・そのままなぞった体験記を、書籍にしてはいけない。
参加していない読者には面白くない。書籍だからこその企画に。

・議論や発表の詳細も、そのまま文にしてはいけない。
これらは、その場に参加しているからこそ価値があるもの。
初見の読者に現場で出たアイデアを語っても、たいていは滑る。

・その本を読んで、読者は何をテイクアウトするのか?
最終的にはいわゆる出版企画書的な視点や狙いが必要。

・書く。とにかく書く。間に合うよう書く。
締切を破って、いろんな方にご迷惑をかける事態にしないこと。

・共感してくれる素敵な編集者に恵まれること。

こんな限定的な内容のエントリが
どこまでみなさまのお役に立ったかわかりませんが・・・
長文に最後までお付き合いいただき、ありがとうございました。

1 件のコメント:

小都一郎(編集者) さんのコメント...

小都です。こちらこそ、i.schoolの書籍化は楽しい体験でした。編集者としてだけでなく、一人の「学生」みたいな気分で毎回望んでいました。
とはいえ、ワークショップの書籍化(一般に流通させるもの)は実際には実現するのはかなり難しいものがあります。
ひとつには、商業レベルの出版物として広く読ませるだけの普遍性を持たせること。WS自体は非常に個別的なテーマだし、そこから生まれてくるアウトプットがうまくいくとは限りません。よさそうなアイデアが出たとしても、それが現実に稼働してうまくいくところまでは追えません(少なくとも今回は追えなかった)。もしうまくいくところまで実証しようとすると、かなりの歳月(=出版社のコスト)がかかります。はっきりいうと、そんな企画書はなかなか通りません。ですから、i.schoolの場合のように専属のライターがいない場合は、山田さんがいうように、自腹でも付き合うような編集者を巻き込むことは重要かと思います。ちなみに、プロのライターを頼む場合は、途中の様子を雑誌などで連載してもらうなどの換金手段がないと、長丁場になるとコストの関係で厳しいと思います。
あと、書籍化したいと思ったら、その本を売るためのしくみも主催者側で考えておくこと。i.schoolの本は、まあ東大ものだし、博報堂さんのつてや、イノベーション関連書としてどのくらい売れるかは読めたので、出版できましたが、普段はそんなに簡単にはいかないと思います。読みたい人はいるはずだ、だけでは、今は出版社はとりあってくれません。もちろん、作ったものに対しては出版社も最大限の売る努力はしますが、限界はあります。ちょっとでも長く本を世に残すために、言いだしっぺにも努力は必要です。そういう意味でも、いま山田さんがここに書き込みしてくれていることには心から感謝したいと思います。